遺言書に関するご相談

遺言書を親に書かせたいがどのようにすれば良いか、というご相談をその子から受けることがあります。

 遺言書を親に書かせたいがどのようにすれば良いか、というご相談をその子から受けることがあります。相談を受ける立場からすると、まずは遺言書を親に書かせたい「動機」が気になるところです。そして正直なところ、その「動機」は、自分の利益になるような遺言内容を親に書かせたい、というものになることが多いです。そのお考えを否定するつもりは全くありません。相続手続きを円滑に進めるために、遺言書の作成は有効な方法の1つです。

 ただし、当然ですが、その財産は親のものであり、財産の処分方法である遺言書を残すことについて、強制することはできません。もちろん遺言書の内容についても指図できるものでは、ありません。子ではなく、孫や、あるいは団体に寄付したいという思いをお持ちの方もおられるでしょう。

 これらの考えは大前提としてお伝えした上で、ご相談を進めることになります。

(親の遺言書に関する、その子からの相談という状況としてお読みください。)

 親が遺言書を作成する際、最も大切な要素は「信頼」と私は考えています。親は自分の意思をきちんと後世に伝えることを、子どもに託すわけですから、親が心から信頼している相手に対してでないと、いくら法律に基づき、理屈で遺言書のメリットを説明しても、遺言書を作る決断をしないことが多いです。

 逆に、信頼関係が強ければ、親も自分の希望や考えを安心して残すことができると感じるはずです。そのため、日々のコミュニケーションを大切にし、親の気持ちを理解し、親が「自分の意思を尊重してくれる」という実感を持ってもらうことが、遺言書作成の第一歩と言えます。

 また、突然「遺言書を書いて欲しい」と言うと、親が不安や抵抗を感じることが多いですが、日常的に「将来のこと」「相続に関する話」などを軽く話しておくことで、自然にその話題を取り上げやすくなります。特に、親がまだ元気なうちに、終活に関する話題を取り上げることで、遺言書作成の重要性を感じてもらいやすくなります。

 親が遺言書を書くことに抵抗を感じる理由には、いくつかの心理的な障壁が存在する場合があります。特に年齢を重ねた親にとっては、自分の最後を意識すること自体が非常に辛く、避けたがることがあります。

 また、「生きている間、誰にも迷惑をかけたくない」、「後のことは私には関係ない」といった気持ちから、遺言書を書かずに生きることを選ぶ親も少なくありません。このような心理的な抵抗を理解し、無理に遺言書を書くように迫るのではなく、親が自然に書きたいと思えるような環境を作ることが大切です。

 その他、例えば、兄弟仲が悪い等の事情があり、そのことを親が心配している場合は、自分の遺言書が兄弟仲をさらに悪くしてしまうのではないか、と不安に感じることがあります。難しいかもしれませんが、兄弟仲の修復を図る姿勢を見せることにより、不安を取り除くように努めることが重要になります。兄弟全員で遺言書作成を頼めば、親も遺言書を書いてくれるかもしれません。

 親が遺言書を作らない背景には、家族に対する心配や愛情があることが多いです。

 親が遺言書を書く際には、子どもがサポートすることが非常に重要です。(あくまでサポートに徹することです。)

 遺言書を書くことに対する不安や困難を感じる親に対して、「私はあなたが遺言書を作成することをサポートする」という姿勢を示すことで、親は少しでも安心して書く気持ちが芽生えることがあるでしょう。

 例えば、遺言書作成における専門家を一緒に探したり(親が自ら専門家をお選びいただくことが、遺言書作成へのモチベーションにも繋がります。)、その他面倒なこと(必要書類の取り寄せ、財産の洗い出し、現在の契約内容の確認など)をお手伝いすることで、親に寄り添う姿勢を示すことです。サポートは必要最低限にとどめ、親自身は、自分の意思で遺言書を作成していると自覚して頂くことが大切です。冒頭書いたとおり、遺言書作成は親が主体的でなければならない単独の法律行為です。

 遺言書を書いてもらうためには、親との信頼関係を築き、感情的な障壁に共感し、無理なく遺言書を書くことが親にとって責任であり安心であると感じてもらうことが重要です。

 親が遺言書を書く決断をするためには、親が抱える不安や感情に寄り添い、サポートする姿勢を示すことが最も効果的な方法です。そのため、日常的なコミュニケーションや信頼関係の構築が遺言書作成を促進する大きな要因となります。